株主優待をノーリスクで受け取れるつなぎ売りのメリットと隠れた危険性

株式投資の虎

株主優待

株主優待生活をしている個人投資家の桐谷広人さんがテレビ取材などを受けるようになったこともあり、株主優待を取得したいと考える方も増えました。

株主優待は株式投資の楽しみの1つであり、企業によっては驚くほどお得な優待を提供して個人投資家を呼び込もうとしているところもあります。

配当金と合わせて、自社製品の「詰め合わせセット」や「クオカード」がもらえるのは嬉しいですよね。

私自身も複数の銘柄に投資をし、毎年株主優待をゲットしています。

しかし、株を保有すると発生するのが「株価の変動リスク」です。「投資には興味がないけど優待は欲しい」という人も少なくないはず。

リスクを取らずに株主優待だけを手に入れる方法として有名なのが、「つなぎ売り」という手法です。

つなぎ売りを活用すれば、株価の変動による損失を防ぎ、ノーリスクで株主優待をゲットできるのですが、実はつなぎ売りには隠れた危険性があります

今回は、株主優待を手に入れる前に知っておきたい「つなぎ売り」のメリットと、その危険性についてまとめたいと思います。

つなぎ売りとは?

疑問

つなぎ売りとは、現在保有している株式に対して、株式信用取引の「信用売り(空売り)」を同じ株数だけ仕掛けることで、買いポジションと売りポジションを同じだけ持つ手法です。

事例でわかるつなぎ売り

現在、トヨタ自動車の株式を300株保有していたとします。

この状態で、信用取引の空売り(信用売り)を使って、同じトヨタ自動車の株式を300株空売りします。

こうすることで、トヨタ自動車の保有数300株、空売り株数300株の状態を作ります。

これが「つなぎ売り」の状態です。

では、買いポジションと売りポジションを同数持つと、損益が発生しないニュートラルな状態(中立の状態)を作ることができます。

上記の例を踏まえてもう少し詳しく解説します。

つなぎ売りすると利益も損も発生しない

つなぎ売りの状態では、利益も損失も一切発生しない「中立の状態」になります。

通常は、保有株の株価が上がれば利益が出ますし、下がれば損をします。

しかし、保有株と同数の空売りをしているため、株価が上がると空売りポジションが損失となり、株価が下がると空売りポジションが利益となります。

つまり、株価が上がっても下がっても、一方では利益が増え、もう一方では損失になるため、株価の上下で損益の影響を受けなくなります。

FXをやったことがある人は「両建て」という言葉をご存知かもしれません。

「つなぎ売り」と「両建て」は同義です。

つなぎ売りが株主優待に有効な理由

なぜ「つなぎ売り」と呼ばれているのかというと、一時的に場をつなぐために行う手法だからです。

株主優待を手に入れるためには「権利付き最終売買日」にその銘柄を保有した状態で大引けを向かえる必要があります。

言い換えれば、1年間株を保有していなくても「権利付き最終売買日」だけを狙って株主優待が魅力的な銘柄を買っておけば、株主優待はゲットできるということです。

しかし、株主優待で人気の銘柄は大抵、同じ考えを持った投資家が多いので「権利付き最終売買日」に向けて株価が上昇します。皆、株主優待を取るために事前に仕込んでいるわけです。

多くの投資家が株主優待目当てでその銘柄を買っているわけですから、当然、「権利付き最終売買日」の次の日には株価が急落します。

優待の権利だけを取って、次の日にはその株はもういらないので売ってしまおうと考える投資家が多いです。

ここで株価の急落を食らってしまうと、3,000円相当の株主優待をゲットするつもりが、株価下落の影響で30,000円ぐらい損してしまう。。。という事態になります。

しかし、事前に「つなぎ売り」をして損益が発生しない中立状態を作っておけば、株主優待の権利だけをノーリスクでゲットして、次の日に株価が急落しても、一切の損失は被らずに済むわけです。

これがつなぎ売りの最大のメリットです。

その他のつなぎ売りが役立つシーン
・保有株の決算発表前
決算が発表されると株価が急騰・急落することが少なくありません。

こうした急変動は大きなリスクとなるため、決算発表前につなぎ売りをしておくことで、決算発表直後の値動きを一時的に回避できます。

・株価が天井圏にある
保有株が急騰し、そろそろ急落しそうだと思った時、最適な方法は持ち株を売却して利益確定をすることです。

しかし、様々な理由で保有株を売りたくないシーンはあります。そうした時に、天井圏でつなぎ売りをしておくことで、株価変動による損益をそこで一旦止めることができ、急落による損失を防げます。

株価急騰時は空売りが増加するため「空売り規制(通称:売り禁)」になることが少なくありません。

こうした場合に備えて、売り禁になる前に「信用買い+信用売り」のポジションを持ち中立の状態にしておきます。

その後、その銘柄が売り禁となり、急落しそうなタイミングで買いポジションを外すと、すでに売り禁の銘柄に対して空売りを仕掛けることができるので、株価急騰後の急落を利益に変えることができます。

この手法はプロのデイトレーダーがよく使っているやり方です。

つなぎ売りの隠れた危険性

続いて、つなぎ売りのデメリットについてまとめます。

つなぎ売りをして株主優待を手に入れたいと考えている人にとって、とても重要な項目となりますので、必ず頭に入れておいてください。

逆日歩の恐ろしさ

投資の失敗

空売りは、その銘柄の株式を保有している投資家から、証券会社などを通じて株式を借りて売却を行い、最終的に株式の買い戻しをして投資家に返却するというのが一連の流れです。

空売りの流れ
1.株の保有者からその銘柄の株式を借りてくる

2.借りた株を最初に売却する(売りから入る)

3.株価が下がったところで株式を買い戻して返却する

4.株価が下落しても利益が出せる。

しかし、株主優待のシーズンはつなぎ売りをしたいと考える優待目的の投資家が極端に増えるため、その銘柄に対して空売りをする人がとても多くなります。

すると、空売りをするために必要な「投資家から借りてくる株」が枯渇してしまい、空売りするための株券の調達が困難になります。

空売りをする人が極端に増えて、株券の調達が難しくなった時に発生するのが、品貸料(逆日歩)という手数料です。

空売りをしている人に1日単位で「逆日歩」という名前の手数料をかけることで、借りている株券の早期返済を迫るわけです。

逆日歩は1日単位で発生し、通常は1日あたり数十銭程度なので気にならないのですが、空売りをした人が増えれば増えるほど、逆日歩は釣り上がる仕組みです。

特に株主優待シーズンは逆日歩が跳ね上がり、極端な例で言うと1日10%近い手数料を支払わなければならないこともあります。

つまり、株主優待で得られるメリットの何十倍もの損失を被る危険性があるのです。

「現物買い+空売り」のつなぎ売りで株価変動の損益はプラマイゼロにできますが、逆日歩が発生すると、別途想定を上回るコストがかかる可能性があります。

逆日歩による損失は、株主優待目的の投資家が一度は陥る痛い経験なので、つなぎ売りをする前に必ず注意してください。

しかし、つなぎ売り最大のデメリットと言われていた逆日歩ですが、近年は「逆日歩の発生しない信用取引」が登場したため、このリスクも回避できます。

詳細については後述します。

つなぎ売りの手数料

手数料

つなぎ売りをする上で一番気をつけなければならないのは前述の「逆日歩」の存在です。

しかし、その他にもつなぎ売りをするために必要な手数料がいくつかあるのでまとめておきます。

まず、空売り(信用売り)をする時に「信用取引 売買手数料」が発生します。これは、空売りを行うときの手数料・空売りポジションを解消するときの手数料が両方かかります。

野村證券や大和証券などの大手は手数料が高いので、取引手数料の安いネット証券で行うのがおすすめです。

もう一つが「貸株料」です。信用買いでは「信用金利」と呼ばれていますが、空売りでは「貸株料」といいます。

空売りをする時に、証券会社から株を借りる手数料で、一定の料率に対して日割りで費用がかかります。

ただし、貸株料はつなぎ売りのような短期の取引では気になるレベルの費用にはなりません。

そしてもう一つ、「配当落調整金」がありますが、こちらは後述します。

配当金は手に入らない

つなぎ売りをした状態で「権利付き最終日」を通過すれば、株主優待に加えて配当金ももらえるのではないか?と思った方もいると思います。

しかし、現物株式を保有している場合に配当金がもらえる一方で、空売りをしている時は「配当落調整金」として、配当金相当額の手数料を支払わなければなりません。(証券会社の口座から自動的に差し引かれます)

つまり、配当金についてもプラマイゼロの状態になるので、つなぎ売りにおいては、実質的には株主優待の分だけ得することになります。

取引方法 配当金 株主優待
現物株式を保有 もらえます もらえます
信用買い △(配当金相当額が配当落調整金としてもらえます) もらえません
信用売り ×(配当金相当額が配当落調整金として差し引かれます) もらえません

ちなみに、上記の表のとおり株主優待がもらえるのは「現物株式の保有者」のみなので、「信用買い+信用売り」でつなぎ売りをしても、株主優待はもらえません。

優待タダ取りはあくまでも「現物買い+信用売り」の組み合わせが条件となります。

逆日歩の発生しない信用取引

制度信用取引と一般信用取引の違い

信用取引には「制度信用取引」と「一般信用取引」の2種類があります。

上記の図の通り、制度信用取引は「日本証券金融」を通じて株券の貸出が行われる仕組みです。一方、一般信用取引(無期限信用取引)の場合はその証券会社の社内で完結しているという点で違いがあります。

制度信用取引は、空売りできる銘柄数が多い(すべての貸借銘柄が空売りできる)メリットがある一方で、逆日歩が発生する可能性があります。

逆日歩は特に株主優待シーズンにおいて高騰しやすいため、つなぎ売りの隠れたリスクとして問題視されていました。

一方で、一般信用取引では逆日歩がかかりません。ただし、「一般信用売り」ができる証券会社は限られています

また、一般信用売りは逆日歩が発生しませんが、貸株料(金利)が高いというデメリットもあります。

信用取引の方法 空売り可能銘柄 逆日歩 貸株料
制度信用 多い 発生リスクあり 安い
一般信用(無期限信用) 少ない なし 高い

また、一部の証券会社は返済期限を定めた「一般信用取引(短期)」のサービスを開始しています。

一般信用取引(無期限)
・返済期限が無期限
・空売りできる銘柄数が少ない
・貸株料は安い

一般信用取引(短期)
・返済期限が短期間(数日~2週間程度)
・空売りできる銘柄数が多い
・貸株料は高い

短期の一般信用取引は貸株料は高く付きますが、逆日歩は発生せず、空売り可能な銘柄数が多いので、株主優待取りを目的とした利用におすすめです。

証券会社の比較

比較

証券会社ごとに信用取引の貸株料率(年率)を比較してみました。

証券会社 制度信用 一般(無期限) 一般(短期) 取引手数料
SBI証券 1.15% 2.00% 3.90% 安い
楽天証券 1.10% 2.00% 3.90% 安い
カブドットコム証券 1.15% 1.50% 3.90% 高め
松井証券 1.15% 2.00% なし 高め
大和証券 1.15% 1.50% なし 高い

※2017年1月現在

大切なことなのでもう一度書きますが、制度信用取引は「貸株料率が安い、空売り可能な銘柄数が多い」一方で、逆日歩発生のリスクがあります。

一般信用売り(短期)は貸株料は高いものの、逆日歩発生リスクがなく、より多くの取扱銘柄があるので、株主優待に向いています。

一般信用売(短期)を取り扱っているのは、SBI証券、楽天証券、カブドットコム証券の3社で、いずれも貸株料は横並びです。

逆日歩発生リスクはありますが、すべての貸借銘柄を空売りできる制度信用取引の貸株料は、楽天証券だけが若干低く設定しています。

カブドットコム証券は一般信用取引(無期限)の貸株料が低いのですが、信用取引手数料が高いのがネック。

貸株料・取引手数料のトータルで見ると、私の意見では、

1位:楽天証券
2位:SBI証券
3位:カブドットコム証券

の順番に、株主優待のつなぎ売りに適している証券会社だと思ます。