Jリートが保有する不動産の含み損益率は将来どのような影響を及ぼすか
執筆者:川原裕也
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Jリートへの投資をする上で、定期的に含み損益率を確認しておくことでリスク回避ができます。
「含み損益率」とは、Jリートが保有する不動産物件の「取得価額」と「鑑定評価額」の差です。
物件の購入価格となる「取得価額」は、購入後もずっと変わることはありません。一方で、鑑定評価額は定期的に変わります。空室が目立ったり、不動産市況が悪くなると鑑定評価額は悪化しますし、逆に地価などが上がると物件の価値も上昇します。
含み損益率の改善は、リート運営者側にとっても重要な指標の一つです。
不動産の含み損益率が及ぼす影響
なぜ、含み損益率が重要なのか。その理由をまとめます。
さらなる借入ができる
取得した不動産物件の価値が上昇し、含み益が大きくなると鑑定額LTV(鑑定評価額に対する借入金比率)が下がります。
借入金比率が下がると財務健全性が向上するため、資金調達で有利になります。
- さらなる借入で追加の物件が取得できる
- 財務健全性の向上で借入利率が下がる
不動産投資において、ファイナンス面での優位性は利益に直結する項目です。
鑑定額LTVが低下することで、さらに借入ができるようになれば、そのお金を利用して追加で物件が取得できます。新しく物件を取得すれば、分配金の向上に繋がります。
また、鑑定額LTV低下によって財務健全性が高まれば、より有利な条件で借り換えができるようになります。借入金利が下がれば支払利息が減るため、その分のお金が分配金に回せます。
いずれの場合も分配金向上に繋がるため、保有物件の含み益が大きくなることは分配金の増加要因となると考えて間違いありません。
売却益が期待できる
リートは基本的に不動産賃貸業ですので、一度取得した物件を長期間保有し、そこから得られる賃料を分配金として還元することで事業を展開します。
しかし、不動産マーケットの状況に合わせて、定期的に物件の入れ替え(ポートフォリオの組み換え)が行われます。その際に、保有物件を売却することもあります。
保有物件を売却する場合は当然、含み益が大きければ大きいほど良いです。含み益が大きい物件を売却すれば、新しい物件も取得しやすくなりますし、取得したい不動産がなければ、保有物件の売却益を投資家に還元することもできます。
含み損が大きくなりすぎると爆弾が落ちる
では逆に、含み損が大きくなるとどのようなデメリットがあるのか。
上記のメリットの逆を考えると、リートが含み損を抱えるデメリットが見えてきますが、ここではもう少しわかりやすく説明します。
まず、Jリートは安定した分配金が得られる金融商品であり、「安定的」であることに前提として投資をしている人がほとんどだと思います。これは、リートの運営側も承知しています。
つまり、分配金を大きく下げてしまうことはリートとしてあってはならないことなのです。
しかし、保有物件が大きな含み損を抱えていると、ポートフォリオ組み換えによる物件の売却時時に損失が出ます。売却損が出てしまうと、その期の分配金は大きく下がってしまいます。
これを避けるためにリートがよく取る手法として、含み益のある物件と含み損のある物件を一緒に売却して、トータルで売却損が出ないようにするというものがあります。こうして、売却損を避ければ、これまでどおりの分配金は維持できます。
しかし、保有物件が含み損ばかりとなっていると、その手法が使えないため、「手放したくても売却できず、身動きが取れない状態」になってしまいます。優良とはいえない物件を抱えているとわかっていても、売却損による分配金の毀損が怖くて手放せないのです。
しかし、優良とはいえない物件を持っていても不動産の老朽化などにより分配金はジリジリと減少していきますから、いずれそれらを売却しなくてはなりません。
含み損を抱えた物件を仕方なく売却し、分配金が大きく減ってしまう「爆弾」をやらかした事例が過去にありました。
今はスポンサーが変わって銘柄名も変更となりましたが、当時は関西電力系のリートとして運営していたMIDリート投資法人(現 MCUBS MidCity投資法人)(3227)がその代表例です。
MIDリート投資法人の分配金90%毀損事件
この事件は2013年に起こった話です。
MIDリート投資法人(現 MCUBS MidCity投資法人)は以前からポートフォリオに「パナソニック大阪京橋ビル」を組み込んでいました。
パナソニック大阪京橋ビルは昭和49年に建てられて老朽化が進んでおり、MIDリート投資法人としては早期に手放す必要がありました。また、2013年5月には主要テナントのパナソニックが退去することが決まっていたので、なんとしても処分したい案件だったのです。
しかし、MIDリート投資法人は、「パナソニック大阪京橋ビルと他の含み益がある物件を同時に売却して売却損を回避する」ことができず、身動きが取れない状態に。。。結局、パナソニック大阪京橋ビルを売らざるを得ないタイミングになって大きな売却損を計上し、第14期の分配金が当初予想の90%以上減少するという爆弾をやらかしてしまいました。
まとめ
Jリート保有物件に含み益があると、良いことばかりです。逆に、含み損を抱えているといつか大きな問題に発展する可能性があります。
含み損を抱えているJリートほど、投資家は手を出したがらないので株価が上がらず、相対的に利回りが高くなります。
こうした銘柄は利回りが高いので一見して良いリートに見えるのですが、こうしたリスクの裏に存在している利回りであることも多いので注意が必要です。
Jリートの銘柄を選択する場合は、表面上の利回りだけでなく、保有物件の「質」と「取得価額」にも目を向けることが大切です。
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最後まで読んでいただきありがとうございました
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