立会外分売とは?メリットと隠れたデメリット
執筆者:川原裕也
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立会外分売とは、特定の大株主が東京証券取引所の取引時間外に大量の株式を販売する方法です。
通常、上場企業の株を買いたい時は、株式市場で買い注文を出して取得します。逆に売りたい時は株式市場で売り注文を出して売却します。こうした取引を「市場取引」といいます。
しかし、何らかの理由で大株主などが一度に大量の保有株を売却したい場合、株式市場で一度に大量の売りを出すと、株価が値崩れしたりパニックに陥ってしまうリスクがあります。
そこで、事前に証券会社を通じて「大量の株式を売り出すので、買う人はいませんか?」という募集をかけます。その募集に対して購入意向を示した多くの投資家に、証券会社を通じて販売するのが、立会外分売です。
立会外分売は市場取引ではありません。「売り手 → 証券会社 → 買い手」という形で、証券会社が販売の仲介を行ってくれます。
立会外分売で株を購入するメリット
立会外分売はネット証券でも頻繁に募集しています。気になる銘柄があれば、購入申し込みをしておくことで、立会外分売による株式買付を行えます。
立会外分売や売出しのページを見ると、「現在募集中の銘柄」をチェックすることが可能です。
利用メリットは2つあります。
- 購入時手数料が0円
- 市場外取引となるため、購入時手数料0円でその銘柄を入手できます。
- ディスカウント価格で購入可能
- 現在の株価よりも3%前後のディスカウント価格で割安に取得できます。
※購入時手数料は無料ですが、売却時は株式取引手数料がかかります。ネット証券の方が手数料が安いのでおすすめです。
最大のメリットはやはり「通常よりも安い価格で購入できる」ことです。ディスカウント率は銘柄とその時の状況によっても異なります。
また、立会外分売で取得した株式は、受け取り後すぐに売却できるため、割安価格で入手してすぐに市場価格で売却するだけで、利益を得ることが可能です。
ディスカウント価格で購入できるのが立会外分売の大きなメリットです。
しかし、立会外分売の実施日から売却可能日までにはタイムラグがあります。
立会外分売を利用してディスカウント価格で取得した後に、即日売却はできますが、その日の寄り付きでみんなが一気に売り出すと、株価が下がってしまいます。
わかりやすく説明すると、「ディスカウント価格で入手 → すぐに売って儲けようと思ったら、(立会外分売で購入した)みんなが一気に売り出したので、当日大きく値下がりした状態での寄り付きとなった」となります。
立会外分売で割安に購入できるからと言って、即時売却で必ず儲かるわけではないことを覚えておきましょう。
下記は、SBIネオトレード証券が2016年に実施した立会外分売の一例です。
「割引率」が立会外分売前の株価からのディスカウント率です。
しかし、立会外分売が終了後、購入者がすぐに売りに出すため、「対始値騰落率」はマイナスになっている銘柄もあります。
例えば上記で言うと「ユークス」の立会外分売に参加して即売却をした場合、1.53%の損失になっていることを表しています。
逆に、デメリットとしては以下のようなものがあります。
- 申込上限数量が決まっている
- 申し込み可能な購入希望株数が制限されています。
- 抽選になることも
- 購入希望者が多い場合は、IPOなどと同様に抽選となります。
いずれも、デメリットというほどのものではありません。
最大のデメリットはやはり、上記で説明した通り、確実に儲かるものではなく場合によっては損失を被る可能性もある取引だということです。
立会外分売と公募売り出しの違い
大株主や企業が株式を大量に売却する場合、立会外分売の他に「公募売り出し」が行われることもあります。
どちらも基本的には同じなのですが、
- 売り出しの場合は増資とセットで行われる事が多い(規模が大きい)
- 売り出し価格決定日から売却可能日までの日数が長い
- 届出書の提出が必要(企業側の手続きが面倒)
といった違いがあります。
どちらもディスカウント価格で購入できるため、即日売却できるかどうかという点を除けば、私たち投資家としては立会外分売も公募売り出しも基本的には同じです。
企業側(売り出し側)の都合によって、立会外分売での募集となるか、公募売り出しでの募集になるかが変わります。
ちなみに、もちろん小規模で手続きが簡単な立会外分売の方が頻繁に募集・実施されています。
立会外分売が行われる理由
立会外分売が発表される理由には様々なものがあります。
多くの証券会社や投資情報サイトでは、「前向きな理由」ばかりが語られていますが、ここでは私の経験を元に「後ろ向きな理由」についてもまとめたいと思います。
いずれも「何らかの理由で大株主や自社が保有株を大量に売却しようとしている」ことに変わりありません。
私たち投資家は、「立会外分売によって大株主や自社が保有株を大量に売却しようとしている意図」を見抜かなくてはなりません。
企業が株主を増やしたい場合
前向きな理由としては、「企業が株主数を増やし、より多くの人に自社株を持ってもらいたい場合」です。
自社の業績が良いにも関わらず、株価が上がらない理由の一つに「流動性」があります。
「流動性リスク」とは、売りたい時に(買い手が少なすぎて)売れない、買いたい時に(売り手が少なすぎて)買えないという状態が引き起こす問題です。
株式市場での取引量や、市場に出回っている株式数が少ない場合、機関投資家などの大口の株主は流動性リスクの問題から、売買に参加しにくいです。
また、流動性が低い銘柄は総じて値動きが激しくなります。東証マザーズなどの新規上場銘柄の値動きが激しいのは、こうした理由もあります。
株価が業績に関係なく極端に値上がりしたり値下がりするというのは、経営陣からすると歓迎できることではありません。
そこで、流動性を高めることで株主数を増やし、株価の安定度も高めるために立会外分売を行います。
また、東証一部へ指定替えするためには「2,200人以上の株主が必要」という条件があります。
東証マザーズや東証二部から、東証一部への指定替えを狙っている企業としては、株主数を2,200人以上に増やす必要があります。そこで、株主数を増やす取り組みとして、立会外分売を発表するのです。
つまり、投資家としては立会外分売を実施した企業について「この企業は近い将来東証一部への上場(指定替え)を狙っているのではないか?」と考えることができます。
東証一部に昇格すると、東証一部上場企業だけを投資対象にしている新たな機関投資家が株を買ってくれたり、企業としての信用度が上がることで業績がアップし、株価上昇が期待できます。
これが、立会外分売の「前向きな理由」です。
大株主が一気に売りたい場合
一方で、「後ろ向きな理由」としては、何らかの理由があって大株主が保有株を手放したいのではないか?という見方もできることです。
立会外分売では、分売終了後に「大株主の異動」が合わせて発表されるケースが結構多いです。
この場合、立会外分売を利用して大株主が売り抜けたことになります。
▶フジテック(6406)の場合
2017年2月13日:株式の立会外分売を発表(PDF)
この分売によって、フジテックの株式1,835,000株を売り出すと発表しています。
また、資料には親切に「当社の主要株主である株式会社ウチヤマ・インターナショナルから、その保有する当社株式について売却意向の連絡を受けており~」と記載されています。
つまり、これまで大株主だった「ウチヤマ・インターナショナル」が何らかの理由でフジテックの株式を大量に売却したいと考えていることです。
これは、単純にウチヤマ・インターナショナル側の戦略的な理由でフジテック株を売りたいだけなのかもしれませんし、もしかするとフジテックの将来性について疑問を感じたため、売却を決めたのかもしれません。(ちなみに、ウチヤマ・インターナショナルは社長の資産管理会社と思われます)
実施の目的は「当社株式の分布状況の改善および流動性向上を目的とするものです」と書かれていますが、本当の理由は誰にもわかりません。
2017年2月13日:大株主の異動を発表(PDF)
当初の予定通り、ウチヤマ・インターナショナルが1,835,000株を売却し、保有株比率が10.36%から8.10%に後退しています。
▶オールアバウト(2454)の場合
2014年11月25日:立会外分売の発表(PDF)
売り出し株数は672,000株です。分売の理由については「株式の流動性の向上と株主数の増加のため」と書かれています。
この時点では、誰が売り出すのかは公表されていません。
2014年12月2日:大株主の異動を発表(PDF)
立会外分売が終了したあとで、オールアバウトの大株主だったリクルート・ホールディングスが672,000株を売却したと発表しています。
立会外分売の売り出し数と一致するため、この分売ではリクルートがオールアバウトの株を手放したことがわかります。
立会外分売でよくあることですが、
- 一度発表されると継続的に売ってくる可能性がある
- 大株主である創業社長が売出しを行う
という点には注意が必要です。
立会外分売は、株主数の増加と流動性の向上を目的として、一度だけ実施されることもあれば、大株主が保有株を売りたいために、継続的に立会外分売で売ってくることもあります。
「株主数の増加・流動性の向上」と言えば聞こえはよいですが、市場に出回る株式数が増加するとそれだけ(株式の供給量が増えるため)値が重くなることにつながります。
また、大株主である創業社長が立会外分売を利用して保有株を大量に売ってくるケースも多いです。
これも、「株主数の増加・流動性の向上」という前向きな考え方もできますが、「社長が自社の将来性に疑問を感じ、やる気を失っている」と考えることもできます。
創業社長はその会社の中核を担っています。社長自身が「まだまだこの会社は成長して業績も上がるから、株価もきっと上昇するぞ」と思っているのであれば、本来は保有株を売りには出さないものです。
SBI証券が立会外トレードを開始
先進的なサービスをいち早く取り入れるSBI証券が「株式一括売却信託/立会外トレードサービス」を開始しています。
これは、SBI証券と三井住友信託銀行が共同で開発したサービスとなります。
これまで説明してきた立会外分売では、複数の証券会社が売り出しを請け負います。
しかし、「株式一括売却信託/立会外トレードサービス」は、保有株式を大量に売り出したい事業法人が、三井住友信託銀行へ売却意向を示し、信託します。
SBI証券は三井住友信託銀行を通じてその株式を買取、個人投資家に販売します。
このサービスによって今後「SBI証券独占の立会外分売」案件が増えるのではないかと思います。
続いての記事は「PSR(株価売上高倍率)とは?赤字会社の割高・割安がわかるPER・PBRに続く指標」です。
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