マネタリーベース、マネーストック、マネーサプライの違いは?過去推移を調べる方法

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マネタリーベース・マネーストック・マネーサプライを理解する

日本銀行が量的緩和策の説明を行う際、「マネタリーベース」や「マネーストック」といった言葉が使われます。

日常生活においてはあまり馴染みのない言葉だと思いますので、この機会に

  • マネタリーベース
  • マネーストック
  • マネーサプライ

の違いと、それぞれの意味についてわかりやすくまとめておきます。

また、これらの過去の推移(統計データ)を入手する方法もあわせて解説します。

あらかじめ、日本銀行(通称:日銀)について簡単に説明しておきます。

日本銀行は「銀行の銀行」と呼ばれており、民間の金融機関を取引相手にしている特別な銀行です。(私たち、一般消費者とは直接取引をしません)

通貨発行権を有しており、新しくお金を発行したり、世の中に出回る資金量をコントロールして、景気の調整を行う役割を担っています。

日本銀行のような特別な銀行のことを「中央銀行」と呼びます。世界の中央銀行では、米国の「FRB(連邦準備制度理事会)」が特に有名です。

日本銀行は、様々な手法で景気の調整を行っていますが。その代表的なやり方には、

  • 金利の引き上げ・引き下げ
  • 量的緩和(世の中のお金の流通量を増やす)
  • 質的緩和(株式ETFや不動産などの買い入れを行う)

などがあります。

マネタリーベースとは?

取引

マネタリーベースとは、「世の中に存在するすべてのお金の量」のことです。

マネタリーベースの計算式

マネタリーベース = 日本銀行券発行高 + 貨幣流通量 + 日銀当座預金

それぞれの用語を噛み砕いて説明します。

  • 日本銀行券発行高:お札のこと
  • 貨幣流通量:硬貨のこと
  • 日銀当座預金:民間銀行が日銀に預けているお金のこと

言い換えると、世の中に存在する「お札・硬貨・民間銀行が日銀から引き出せる預金」を合わせた「すべてのお金の量」がマネタリーベースになります。

日本銀行は2016年に「マイナス金利政策」を発表しましたが、これは「日銀当座預金」の一部に対して適用されたものです。

よって、私たちの預金金利がマイナスになるというわけではありません。(マイナス金利導入によって預金金利は大きく下がりましたが)

民間の銀行は、日銀当座預金にお金を預けているだけで利息が付きます。しかし、預けたままでは世の中にお金が出回りません。

よって、「日銀当座預金のお金をもっと引き出して、企業などに融資してください」という意味合いでマイナス金利を適用し、民間の銀行にアプローチをかけたわけです。

日銀がどれだけ大量のお金を発行しても、それを世の中に流通させる(貸し出す)のは、民間の銀行がする仕事だからです。

マネタリーベースは、「日銀がコントロールできる唯一の指標」であることから「ベースマネー」や「ハイパワードマネー」と呼ばれることもあります。

理論上は、

  1. 日銀が大量のお金を発行する(マネタリーベースを増やす)
  2. 民間の銀行が積極的に融資する(後述しますが、マネーストックが増える)
  3. 景気が活性化して好景気になり、インフレが起こる

という流れになっており、マネタリーベースを増やせばマネーストックが増えると言われています。

が、現実にはマネタリーベースを増やしてもマネーストックは増加せず、その結果として「マイナス金利」を始めとするあの手、この手で景気を刺激しているのです。

マネタリーベースの推移を調べる方法

マネタリーベースの推移

マネタリーベースの過去のデータは日本銀行からダウンロードできます。

上記は1970年1月~2018年10月までのマネタリーベース(平均残高)です。

2006年に一時的に減っていますが、その後も増加しており、2013年のアベノミクスあたりから急激に伸びていることがわかります。

これは、日銀が量的緩和を発表し、積極的に資金を供給しているためです。

マネーストックとは?

買い物を楽しむ女性

マネーストックは、「民間の金融機関が社会に供給している資金量」のことです。

マネタリーベースは「日銀 → 民間銀行を含む社会全体への資金供給」でしたが、マネーストックは「民間銀行 → 社会全体への資金供給」という違いがあります。

言い換えると、マネーストックが増加しているというのは、

  • 銀行の貸し出し量が増えている
  • 社会に出回っているお金が増えている

ことを意味します。

マネーストック統計の集計範囲は以下の通りです。

集計の範囲
一般法人、個人、地方公共団体、地方公営企業(これらを総称して、通貨保有主体と言います)
集計の対象外
預金取扱機関(銀行や信用金庫など)、証券会社、保険会社、政府関係金融機関、短資等

私たちの財布の中に入っている現金や銀行口座・証券会社に預けている預金は集計対象です。銀行や証券会社自身が保有しているお金は対象外となります。

マネーストック4つの指標

マネーストック4つの指標

マネーストックには4つの指標が存在します。

いずれも「マネーストック」であることには変わりありませんが、集計方法が微妙に異なります

少しわかりにくいので、読むのが面倒なら下記の表は読み飛ばしてもらって構いません。

※理解しやすさを優先するため、簡略化して説明しています

M1
現金と預金
M2
「現金と預金」に「準通貨とCD」を加えたもの
M3
「現金と預金」に「準通貨とCD」を加えたもの
広義流動性
「M3」に「流動性を有する資産」を加えたもの

※CD:譲渡性預金の略

※準通貨:大半が「定期預金」です

※「流動性を有する資産」とは、投資信託、銀行発行普通社債、国債、外国債券、金銭信託、金融債金融機関発行CP(コマーシャルペーパー)のこと

※M2とM3の違いは「M2」が預金通貨、準通貨、CDの発行者が国内銀行等に限定されているのに対し、「M3」は全預金取扱機関が集計対象になっていることです。

詳細は、日本銀行のマネーストック統計のFAQ「マネーストック統計にはどのような指標がありますか。」を参照してください。

日銀の説明では、(当然ですが)すべての指標を見た上で分析・判断をしているとのことです。

ただし、日銀が公表している「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」には「M2」を記載しています。

私たちがマネーストックを見るときは「M2」または「M3」を気にするのが良いと思います。

しかし、「M3」は新しい指標だけに「長期の時系列が存在しない」ため、前述のとおり日銀では展望レポートに「M2」を用いているという状況です。

物価変動(インフレ・デフレ)と関係が深い

インフレ

マネーストックは物価と深い関係にあるのがポイントです。

実際に、社会に出回っている資金量なので、世の中にお金がばら撒かれると景気は良くなります。

しかし、お金がばら撒かれると、希少性の低下から1円あたりの価値が小さくなるため、物価上昇(インフレ)が起こります。

バブル景気の時代に、「飲み帰りのサラリーマンが1万円札をヒラヒラさせてタクシーを呼び止めていた」という話があります。

これが「希少性の低下から1円あたりの価値が小さくなる」ということです。お金が有り余る状態になると、1万円が紙切れのように見えるということですね。

通常数百円のタクシーの初乗りに「1万円出しても良い」という人が表れ、それが物価上昇(インフレ)へとつながっていくのです。

逆に、銀行が融資を抑制し、マネーストックが低下すると物価下落(デフレ)の原因になります。

日銀と民間銀行の資金の流れ
  1. 日銀がマネタリーベースを増やす(民間銀行から債券や手形を積極的に買い取る)
  2. 民間銀行は保有している債券や手形を日銀に売却して資金調達する
  3. 民間銀行が企業や個人に融資することで社会にお金が出回る

1.と2.の取引のことを「公開市場操作(売りオペ・買いオペ)」と言います。

民間銀行が、保有している債券を売って資金調達するかどうかは、民間銀行の判断に委ねられています。

日銀がマネタリーベースを増やしても、民間銀行が債券を売ってくれず、予定額に到達しないことを「札割れ」と言います。

マネーサプライとマネーストックは同じ

同一

「マネーサプライ」は、マネーストックと同じ意味です。

以前は、社会に出回っているお金のことを「マネーサプライ」と呼んでいましたが、2008年6月に「マネーストック」に呼び方が変わりました

厳密には、呼び方の変更に合わせてデータの集計方法も変更されています。

例えば、マネーサプライには「証券会社・短資会社・非居住者」の持つ通貨量もカウントされていましたが、「マネーストック」への名称変更とともに、これらは除外されています。

その他にも細かな変更点があります。

詳しい内容は、日銀のマネーストック統計のFAQ「マネーサプライ統計からマネーストック統計への変更点は何ですか」の項目にまとめられています。

マネーストックの推移を調べる方法

マネーストックの推移

マネーストックのデータは、日本銀行のこちらのページで確認できます。

エクセルデータが欲しい場合は、「日本銀行 時系列統計データ検索サイト」にアクセスし、

  1. 主要時系列統計データ表「預金・マネー」
  2. マネーストック[月次]

よりダウンロード可能です。

上記のグラフは、マネーストック(M2)の月次平均の推移です。(1970年4月~2018年10月)

先ほどのマネタリーベースの急激な伸びとは異なり、2013年ごろのアベノミクス以降もゆるやかな増加にとどまっています。

マネタリーベースが急増しているのに、マネーストックはさほど伸びていない。

これは、日銀がお金の発行量を増やしても、それが銀行の貸し出しに結びついていないことを意味します。

信用乗数(貨幣乗数)が低下する理由

マネタリーベースとマネーストックの関係グラフ
インタラクティブ版のグラフはこちらをクリック

日銀が「マネタリーベース」を増やせば、民間銀行がそれに応えて融資を増やし「マネーストック」が拡大し、社会が好景気になる。

一般的にはこのように解釈されていますが、現実は上手くいっているとは言えません。

マネーストックとマネタリーベースの割合を「信用乗数(貨幣乗数)」と言います。

信用乗数(貨幣乗数)の計算式

信用乗数 = マネーストック ÷ マネタリーベース

マネーストック = マネタリーベース ✕ 信用乗数」という公式が一般的です。

この公式から、マネタリーベースを増やせば、信用乗数の倍率だけマネーストックも増加すると考えられていました。

しかし、実際にやってみると上記のグラフの通り「マネタリーベースだけが急増し、マネーストックはゆるやかな伸びにとどまり、結果的に信用乗数が右肩下がりになる」という現象が起きました。

2003年~2018年のマネタリーベース・マネーストック・信用乗数の推移はこちら。(記事執筆月に合わせて10月基準にしています)

これは、日銀がマネタリーベースを増やしても、「日銀当座預金(民間銀行が日銀に預けているお金)」が増えるばかりで、社会に出回っていないことを表します。

この話題については、三井住友アセットマネジメントの「マネタリーベースとマネーストックの関係を再考する(PDF)」の説明がわかりやすいのでおすすめです。

景気回復の手段を考える

考える

では、なぜこのようなことが起きるのか?

その理由の本当のところはわかっておらず、この問題を解決することが現在の課題になっているということです。

日銀は、マイナス金利を実施したり、債券の買い入れを積極化するなど、あの手この手で施策を打っています。

理由のひとつとしてはっきり言えるのは、「お金を借りたい・使いたいという需要がない」ことです。

民間銀行が融資先を見つける努力をしていても、お金を借りたいという人がいなければ、社会に出回るお金は増えません。

これは、多くの企業・個人が何らかの理由で、お金を溜め込んでいて使おうとしないために起こります。

長い不況が続いたことで、防衛的な考えになっていることからお金を貯めているのかもしれなですし、彼らにとってもまた、お金の使い道がないのかもしれません。

また、情報通信産業が発展したことによって、小資本でビジネスが展開できるようになった、いわゆる「ITデフレ」なども原因のひとつかもしれません。

よく、「お金は社会の血液だ」と言われますが、今の日本は血流が悪く、お金がいろいろなところに滞留している状態となっているのです。

どうすれば資金需要が旺盛になるのかはわかりませんが、私たち消費者の場合は、

  • お金を投資に回す
  • お金を消費に回す

といったことができますし、企業にとっては新規投資(新しいビジネスの創出)などが、資金需要を旺盛にするきっかけです。

あくまでも個人的な考えですが、いま注目されている「AI・IoT・ロボット(あと宇宙産業)」は資金需要を活性化する上で期待できる産業だと思います。

なぜなら、これらの新しい技術は、あらゆる産業を再定義する力を持っており、また新規投資額の大きなビジネスになるからです。

これまでのITは投下資本が少なく済む、WEB完結のものが多かったように思いますが、これからはIT技術がより重厚長大産業寄りになってくると考えています。

資金需要が旺盛になると経済が回り始めます。

企業がより多くの取引・労働力を求めるようになると、それを供給する側は価格を引き上げることができます。

例えば、企業がより多くの仕入れをしたいと考え、仕入れた商品を販売する従業員を増やしたいとします。

すると、企業に商品を卸す側の会社は、価格を上げても売れるようになります。また、労働力を提供する社会人は「引く手あまた」の状態になり、より賃金を多く支払ってくれる会社を選ぶことができます。

このようにして、景気に好循環が生まれ、全体的な商品単価や賃金が上がり、インフレ(物価上昇)へとつながっていくのです。

次の記事は、知っているようでしらない「金利」のお話です。初心者の方にもわかりやすく解説しています。

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最後まで読んでいただきありがとうございました

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