配当金を出さない上場企業は悪い会社である
執筆者:川原裕也
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黒字の会社なのになぜ無配当なの?
このように考えたことはないでしょうか。また、配当金を出している会社の場合も「これだけ利益が出ているのになぜ配当金が少ないんだ?」と感じたことはないでしょうか?
アメリカでは、大手企業でも配当金を出していないことが結構あります。しかし、日本の投資家は配当金が欲しいと感じる人が多く「配当金を出さない上場企業は悪い会社だ」という風潮があります。
しかし、この答えは「✕」です。
配当金を出していないからといって、そのお金は決して無駄遣いされることなく企業の成長に活用されています。
配当金を出さない会社はどうなるのか
そもそも、配当金の源泉となるのは何なのでしょうか。この答えは簡単で、「企業が生み出した最終利益」です。
株式会社は投資家からお金を出資してもらい、事業を展開します。そして事業で生み出された最終利益を配当金という形で投資家に還元するというのが、株式会社のお金の動きです。
しかし、現実には企業の配当に対する考えは下記の4つに分かれます。
黒字で配当金を出す会社
通常は事業で利益(黒字)が出たらその利益を投資家に配当します。
黒字なのに配当金を出さない会社
本記事の議論となる会社。配当金を出さずに黒字を会社に内部留保して貯め込みます。
赤字なのに配当金を出す会社
安定的な配当を方針として掲げている会社は、赤字に陥っても内部留保している資金を取り崩して配当金を支払います。
赤字で配当金が出せない会社
言うまでもありません。赤字なので配当できない会社です。
配当しなかったお金は内部留保される
黒字が出たけど配当金として投資家に還元しなかったお金は、内部留保といって会社の中に貯めこまれます。
そして、会社の中に貯めこまれた内部留保金は新規事業の創出や既存事業の強化、研究開発などに使われるのが普通です。また、会社内に貯め込んだ現金が大きくなると「自社株買い」をすることで投資家に還元するケースもあります。
- 配当金を出す(投資家に還元)
- 研究開発などに使う(さらなる会社の成長に使う)
- 自社株買い(投資家に還元)
会社のさらなる成長のために利益を貯め込み、新規事業の創出や既存事業の強化、研究開発に使うことは、配当や自社株買いと同じく投資家への還元と言うことができます。
なぜなら、会社が新規事業を成功させ、会社を成長させることは、株価の上昇要因になるからです。
配当金という形で還元するか、株価の上昇で還元するか。という違いなのです。
成長が著しい会社は配当しない方がいい
上記の理由から、成長が著しいベンチャー企業などは配当金を出さないことが多いです。
黒字で得た利益を配当金に回してしまうことは、逆に言うと次の成長のために使うガソリンを減らしてしまうことになります。
黒字なのに配当金が0円ということは、生み出したガソリンをフルに会社の成長に使っていることを意味しています。
ベンチャー企業のような伸び盛りの会社は、資金需要が旺盛ですから、新規事業や既存事業をもっともっと大きくして、将来的に大きな配当や株価の上昇によって還元してもらえることを期待すれば良いのです。
逆に、ある程度の大企業になって、ベンチャー企業のように毎年業績が2倍3倍で成長するようなことがなくなれば、カネ余りの状態になりますので、安定的に配当を出していく方向にシフトしていきます。
アメリカでは無配当だった企業が配当金を出すと「成長に限界がきた、成長が鈍化し始めた」と捉えられることもあるようです。
実際、iPhoneで有名なアップルですらつい最近まで無配当を続けていました。
配当金を出すと税金がかかる
毎年税金を支払いながら再投資をしていくのと、税金を一度も支払うことなく長期投資をするのとでは、複利効果の点から考えて大きな差がつくという話を、長期投資はデイトレードよりも税金面で有利であるという記事でお話しました。
かの有名な投資家「ウォーレン・バフェット」が配当金を出す会社を嫌う理由は、上記の話に通ずるものがあります。
仮にA社に長期投資をしている場合、A社が毎年配当金を出していると、私たち投資家が配当を受け取ったタイミングで課税されます。
逆に、配当金を一切出さずに、生み出した利益をすべて会社の成長に使った場合、私たち投資家はA社の株式を売却して利益を確定するまで、一切課税されません。長期投資で保有し続ければ、複利効果の恩恵を最大限に享受できます。
つまり、資本を外部に流出させたり、投資したお金を現金化してしまうと、その時点で税金が発生するため、本来なら再投資に回せたはずのお金が、税金として奪われてしまうのです。
とはいえ配当金を出す会社の方がリターンが大きいという意見もある
とはいえ、過去のデータでは、継続して配当金を出し続けた企業の方がトータルのリターンは高くなるとの意見もあります。
有名なのは、ジェレミー・シーゲルの著書「株式投資の未来」に書かれている内容です。
ジェレミー・シーゲルは本書で、市場平均並みの配当を出している会社に投資し、その配当金を再投資する方が、配当金を出さない企業よりもリターンは大きくなると結論づけています。
バリュエーションがここまで物を言う理由は、配当の再投資にある。配当こそは、投資家のリターンを押し上げる最大の要因といっていい。
配当は大いに物を言う。長期的に高い運用成績を達成した銘柄は、たいていの場合、配当を再投資したことがその最大の理由となっている。
高配当銘柄は「成長機会」に乏しいと説く向きもあるが、事実はその逆だ。ある調査で、配当利回りが高い銘柄を選んでポートフォリオを組んだところ、そのリターンは市場平均を年率3ポイント上回った。逆に配当利回りが低い銘柄を選んだポートフォリオのリターンは、市場平均を年率約2ポイント下回った。
長期的に投資するなら、辛抱づよく構えて、配当を再投資して保有株を積み増すのが正解だ。そうすれば、リターンもついてくる。
※一部中略
出典:書籍 ジェレミー・シーゲル「株式投資の未来」
配当金を出す企業に投資べきか、それとも配当金を出さずに内部留保を優先させる企業に投資すべきか。
どちらが正しいかはケース・バイ・ケースでしょうし、意見の分かれるところなので、ここではあえて意見を述べません。
しかし、なぜ配当金を出す会社の方がリターンが大きくなるという結果が出たのか。
その理由は、内部留保を効率的に利益に結び付けられる企業はごくわずかだからです。
配当金を出さず、生み出した利益を内部留保として企業に溜め込み、そのお金を成長投資に使うほうが、効率的であるというのは事実です。
しかしそれは「溜め込んだ利益が、真に企業の利益増大に結びついた場合に限る」という条件が付きます。
企業が成長し続けるためには、新規事業の創出など、様々なチャレンジをしなくてはなりません。
もちろんその中には数多くの失敗もあります。失敗なくしてさらなる成長はありません。
しかし現実には、溜め込んだ利益を「新規事業創出」や「新たなチャレンジ」という名の下に、ただ溶かしてなくしてしまい、長期的に見ても投資した以上の利益増大に結びついていないケースが多いのです。
成長を最大化するために配当を出さず、内部留保を優先させたとしても、そのお金が長期的に見てさらなる利益成長に結びついていなければ意味がないということです。
本当に優秀な会社は、配当を出すよりも内部留保を優先させ成長投資にお金を使う方が、株主にとって良い結果を生み出します。
しかし多くの月並み会社は、溜め込んだ利益を溶かしてしまい、株主へのリターンを小さくしてしまいます。
結果として、全体を通してみると継続的に配当を出している会社の方が長期リターンは高くなる傾向にある(ジェレミー・シーゲルによれば)ということです。
これは私の個人的な意見ですが、何かを生み出すためにはリソースは小さい方が良いこともあります。
使えるお金が多すぎると、無駄な投資を行ってしまい効率性が失われます。
使えるお金が少ない、つまり何かを生み出す過程では一定の制限がある方が、人は頭を使って真剣に考えるため、結果として良いものを生み出せることも多いのです。
上場企業の経営陣においては、「内部留保が多ければ多いほど新たなチャレンジができる」という考えから「内部留保は適切な金額にとどめ、自らに健全な範囲での追い込みやプレッシャーを課す」という考えに変えてほしいと思います。
そうすれば「株主還元」と「最適な企業成長」の両方を実現することができ、それは結果としてROE(自己資本比率)という数字で現れてくるのです。
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最後まで読んでいただきありがとうございました
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水谷 真逸 さんがコメントしました - 2025年1月16日
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2件のコメント
>アメリカでは、大手企業でも配当金を出していないことが結構あります。
実際はアメリカの配当性向は40%以上
日経の配当性向は25%程度
日本の方が圧倒的に配当金を出していないのです
いつもこの種の議論を見て思うのですが。なぜ無配当が許されるのがベンチャーや急成長企業という風潮があるのでしょうか。
別に大企業でも配当金を出すべきではないのではないのでしょうか。JTやメガバンクのような新規投資先に困る企業が余剰資金を株主に返還するという配当は納得できますが、オリックスや三菱商事なんかは実際に成長を続けています。二倍三倍は無理でも毎年連続最高益を更新しています。これらの企業が配当金を無しにしてすべてを成長のために投資すれば大量の資金が調達でき、一層の成長が期待できるでしょうに。なにか間違いがあるのでしょうか。