保有株を他の証券会社に移管するには、株式移管の手順と手数料を調査
執筆者:川原裕也
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証券会社が取引手数料の引き下げ・無料化に動いています。
私たち投資家としては、より手数料の安い証券会社で取引する方がお得です。
現在保有している株式を他社に移管する場合は「株式移管」の手続きを行います。
例えば、手数料の高い証券会社で保有中の株式を、手数料の安い証券会社に移管することで、売却時のコストを小さくすることができます。
保有株を別の証券会社に移動させる「株式移管」は以下のようなシーンで検討します。
- より手数料の安い証券会社に移動したい
- 複数ある保有株を証券会社ごとで分別して管理したい
- TOB(株式公開買付)に応じる場合
多くの人が取引コスト低減を理由に株式移管を行うと思いますが、TOB(株式公開買付)に応じる場合などは、野村證券や大和証券といった大手証券会社へ株式移管をすることもあるかと思います。
目次
株式移管の手順
株式を他の証券会社に移管する手順をわかりやすく解説します。
今回は対面の大手証券会社であり、取引手数料の高い「野村證券」で保有中の株式を、手数料の安いネット証券「楽天証券」へ移管するケースを例に説明します。
もちろん、他の証券会社でも手順は同じです。
まず前提として以下のように整理しておきます。
- 野村証券(移管元と言います)
- 楽天証券(移管先と言います)
株式移管の手続きは以下のとおりです。
- 移管元(今回の場合は野村證券)に「口座振替依頼書」または「特定口座内上場株式等移管依頼書」を請求する
- 上記の書類に記入する
- 上記の書類を移管元(今回の場合は野村證券)に返送する
- 手続き完了後、移管先(楽天証券)の口座に保有株が移動する
多くの証券会社では、ログイン後の管理画面から「口座振替依頼書」や「特定口座内上場株式等移管依頼書」の請求が可能です。
特定口座から特定口座への移管を予定している方は「特定口座内上場株式等移管依頼書」を請求します。
ここで押さえておきたいポイントは1つ。手続きはすべて「移管元(現在、株式を保有している証券会社)」で行うということです。
株式移管を行う場合は、手続きを始める前に、移管先(今回の場合は楽天証券)の口座開設を行っておきましょう。
移管元はもちろん、移管先の口座開設も終えてから、手続きを始めます。
振替先(受方)口座明細の書き方
移管元の証券会社から請求した「口座振替依頼書」や「特定口座内上場株式等移管依頼書」と言った書類には「振替先(受方)口座明細」を記入する項目があります。
「振替先(受方)口座明細」には、移管先となる証券会社(今回の場合は楽天証券)の情報を記入します。
例えば楽天証券の場合、記入情報はこのようになります。
- 証券会社名:楽天証券
- 部支店名:本店
- 所在地:東京都世田谷区
- 機構加入者コード:1205760
- 加入者口座コード:1205760・部店コード・顧客コード・00010 (21ケタの数字)
※部店コード、顧客コードは1人1人異なります。移管先(今回の場合は楽天証券)のログイン後ページや、登録情報ページなどに部店コード、顧客コードが記載されています。
上記を見てもわかるとおり、ややこしいです。株式移管では「振替先(受方)口座明細」の記入がつまづきやすいポイントです。
下記に主要証券会社の「機構加入者コード」「加入者口座コード」の確認方法をまとめておきます。
証券会社 | 機構加入者コード | 加入者口座コードの確認方法 | 詳細 |
---|---|---|---|
楽天証券 | 1205760 | ログイン後ページに記載 | こちら |
SBI証券 | 1125660 | ログイン後、「口座管理」>「お客さま情報 設定・変更」>「登録情報一覧」画面で確認 | こちら |
マネックス証券 | 1233060 | ログイン後、登録情報照会の「お取引店舗情報」画面で確認 | こちら |
GMOクリック証券 | 1172760 | ログイン後、「マイページ」>「登録情報・申請」>「口座情報」画面で確認 | こちら |
松井証券 | 1256060 | 「口座開設完了通知」や「取引報告書」に記載 | こちら |
auカブコム証券 | 1550161 | ログイン後、「入出金・入出庫」>「入出庫」画面で確認 | こちら |
野村證券 | 1240060 | ログイン後、「口座情報/手続き」>「お客様情報照会」画面で確認 | こちら |
大和証券 | 1200060 | ログイン後、「口座情報」>「登録状況・お手続き」>「登録状況」画面で確認 | こちら |
SMBC日興証券 | 1232860 | ログイン後、「各種お手続き」>「口座情報」>「お取引口座」画面で確認 | こちら |
みずほ証券 | 1169660 | 「口座開設完了通知」や「取引報告書」に記載 | こちら |
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 | 1152060 | 電話等で取引支店に確認 | こちら |
念の為に確認しておきます。
今回の事例の場合、野村證券(移管元)から取り寄せた「口座振替依頼書」や「特定口座内上場株式等移管依頼書」に、楽天証券(移管先)の情報を記入するということです。
記入が終わった書類は、野村證券(移管先)に提出します。
手続き完了までの日数
株式移管の手続きは「移管元」が行います。
移管元の混雑状況等によっても手続完了までの日数は異なりますが、SBI証券の場合だと「SBI証券(移管元)が書類を受け取ってから1週間程度で完了する」とのことです。
お客様からご返送いただいた移管書類を受取後、約一週間かかります。公開買付(TOB)など移管期限等がある場合には、余裕をもってお手続きをお願いいたします。
なお、出庫作業中は、ログイン後の当社WEBサイト>「口座サマリー」上からは移管予定銘柄の表示が消えますが、その時点では、移管手続きは完了しておりません。移管先金融機関の口座残高に反映した事をもって、移管手続きは完了となりますので、移管先金融機関の口座残高をご確認ください。
また、一部期間においては、証券会社が「移管サービス・入庫・出庫サービス」を中止しています。中止期間のスケジュールについては、証券会社が公式サイトで案内していることが多いです。
- 移管元からの書類の請求
- 移管元の手続き(1週間程度)
- 移管先の保有株一覧への反映
という、手続き全体にかかる日数も考慮すると、2~3週間程度の余裕をもって株式移管を行うのが良いと思います。
取得日や取得価格はどうなる?
株式移管は基本的に、
- 「特定口座」から別の証券会社の「特定口座」へ
- 「一般口座」から別の証券会社の「一般口座」へ
のみ移管できます。
今回の事例で言うと、野村證券の特定口座で管理している株式を、楽天証券の一般口座に移すことはできません。(逆も同じです)
また、特定口座から特定口座への移動の場合には、保有株の取得日・取得価額は引き継がれます。(※特定口座内上場株式等移管依頼書を用いて手続きした場合)
一方で、一般口座から一般口座への移動では、取得日・取得価額は引き継がれません。移管完了日の株価が取得価額になります。
個人投資家の多くが「特定口座」で取引していると思いますので、取得日・取得価額は引き継がれると考えて問題ありません。ただし上記のような違いがあることは頭に入れておきましょう。
加えて、特定口座で管理している銘柄については「全数量の移管」となり「一部数量だけを移管する」ことはできません。
例えば、野村證券の特定口座でトヨタ自動車株を3,000株保有している場合、3,000株すべてを楽天証券に移管することになります。1,000株だけを野村證券に残し、2,000株を楽天証券に移管するということはできません。
NISA口座の株式を移管するには
NISA口座で保有中の株式については、そのまま他の証券会社に移管することはできません。
言い方を変えると「NISA口座 → 別の証券会社のNISA口座」への移管はできません。
NISA口座を他の証券会社に変更することはできますが、その場合も既存の証券会社で購入した銘柄については、引き続き現在の証券会社のNISA口座で管理することになります。
また、もう一つの方法として「NISA口座の保有株を特定口座または一般口座に振り替える」手続きをしてから、別の証券会社に株式移管することは可能です。
しかしこの方法だと、NISA口座ならではの恩恵を受けられなくなるので注意が必要です。
株式移管のデメリットと注意点
株式移管のデメリットは大きく3つあります。
- 取得日や取得価額が変わる場合がある
- 証券会社によっては移管手数料がかかる(詳しくは後述)
- 株式移管の手続きに日数がかかる
移管手続きを進める上で特に注意しておきたいのは「①取得日や取得価額が変わる場合がある」という点。
大切なことなのでもう一度言いますが、特定口座から特定口座へ株式移管する場合は「口座振替依頼書」ではなく、「特定口座内上場株式等移管依頼書」を使って申込みをしてください。
「特定口座内上場株式等移管依頼書」を用いて株式移管すれば、取得単価の引き継ぎが可能です。
一般口座では「口座振替依頼書」を使いますので、取得日や取得単価は引き継げません。
また、株式移管に際して下記の点にも注意が必要です。
株式移管手続きが完了するまでに、移管予定の銘柄の取引を行うと、手続きが中止されてしまいます。
また、貸株サービスを利用して保有株を貸し出している場合や、信用取引の代用有価証券として保有株を担保提供している場合も、株式移管はできません。
事前にこれらの状態を解除し「保護預り」の状態にしてから移管手続きを行います。
株式移管手数料はいくら?
当社から他社に移管する場合を「出庫」、他社から当社に移管する場合を「入庫」と言います。
ネット証券では入庫・出庫ともに無料です。つまり、ネット証券からネット証券への株式移管では手数料はかかりません。
一方で、大手の証券会社では出庫時に株式移管手数料がかかることが多いです。
ただしどの証券会社でも、TOB(株式公開買付)により、他の証券会社(公開買付代理人)へ保有株を移管する場合については、出庫時の株式移管手数料を無料にしています。(詳しくは各証券会社にお問い合わせください)
- 楽天証券
- SBI証券
- マネックス証券
- 松井証券
- auカブコム証券
- GMOクリック証券証券
※ただし、他社(移管元)で出庫手数料が発生する場合があります。特に大手証券会社からネット証券へ株式移管する場合には注意です。
出庫(税込)
20単元未満:550円+1単元あたり550円(最低1,100円)
20単元以上:一律11,000円
入庫(他社から野村證券への移管)
手数料は無料。加えて、時価合計額500万円以上の株式等を移管した場合は、他社の出庫手数料を野村證券が負担。
出庫(税込)
1単元:1,100円
1単元以上11単元未満:1,100円+1単元ごとに550円
11単元以上:一律6,600円
入庫(他社から大和証券への移管)
手数料は無料。加えて、時価合計額1,000万円以上の株式等を移管した場合は、他社の出庫手数料を大和証券が負担。
出庫(税込)
1銘柄ごと:一律1,000円(一般口座は手数料無料)
入庫(他社からSMBC日興証券への移管)
手数料は無料。加えて、商品カテゴリーごとに時価10万円以上の株式等を移管した場合は、他社の出庫手数料をSMBC日興証券が負担。
出庫(税込)
1単元以下:1,100円
1単元以上10単元以下:1,100円+1単元ごとに550円
11単元以上:一律6,600円
入庫(他社からみずほ証券への移管)
手数料は無料。加えて、時価500万円以上の株式等を移管した場合は、他社の出庫手数料をみずほ証券が負担。
出庫(税込)
1銘柄あたり:1,100円(1回あたりの移管手数料の上限は33,000円)
入庫(他社から三菱UFJモルガン・スタンレー証券への移管)
手数料は無料。加えて、時価500万円以上の株式等を移管した場合は、他社の出庫手数料をみずほ証券が負担。
上記の情報をまとめると以下のようになります。
- ネット証券からネット証券への株式移管
- 手数料は無料
- 大手証券会社から大手証券会社への株式移管
- 一定規模の金額であれば手数料は実質無料(移管先が負担してくれる)
- 大手証券会社からネット証券への株式移管
- 出庫手数料が発生!
※ただし、TOBに応募する場合など、特殊なケースにおいては移管手数料はかかりません。
手続きが面倒ならクロス取引がおすすめ
株式移管手続きが面倒な場合は、「市場でクロス取引をして証券会社を移管する」方法もあります。
クロス取引とは?
クロス取引とは、ある銘柄の注文において、同一銘柄、同数量の買い注文と売り注文を同時に発注し、約定させる取引をいいます。
出典:楽天証券
例えば、野村證券から楽天証券に株式を移管したい場合は、以下のようなクロス取引を行います。
- 野村證券で成行売り注文を出す
- 楽天証券で同数量の成行買い注文を出す
- 寄り付きと同時に、売り・買いが実行され、野村證券の保有株が楽天証券へ移行する
この方法はつまり、既存の証券会社で持ち株を売却し、新しい証券会社で買付をするということを行っているだけなので、厳密には「移管」ではありません。
よって、既存の証券会社で保有株を売却した時点で、利益または損失を確定したことになり、利益が出ている場合は課税される点に注意が必要です。
また、売却時・買付時に取引手数料が発生するというのもデメリットです。
しかしこの方法なら、書面での手続きも不要で、その日のうちに株式移管を完了させることができます。(厳密には受渡に数営業日かかります)
また、上記の取引をするにあたっては、
- 寄り付き前に注文を出す
- 同数量の注文を出す
ことで、市場の価格形成へ影響を与えないことが重要です。
なぜかと言うと、クロス取引はやり方によっては「不公正取引」として犯罪になってしまう場合があるからです。
必ずしも問題になるわけではありませんが、
- ザラ場中のクロス取引(寄付・引け以外のタイミングでのクロス取引)
- 買い注文と売り注文の数量が異なるクロス取引
は相場操縦とみなされる場合があります。
問題のあるクロス取引の概要については、auカブコム証券の不公正取引 Q&Aが参考になります。
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最後まで読んでいただきありがとうございました
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