株式分割って儲かるの?株主への経済的メリットをまとめてみます
執筆者:川原裕也
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企業は、自社の株価が高くなると「株式分割」を発表することがあります。
株式分割を発表すると、株価が値上がりすることが良くあるのですが、これはどういう理屈で起こることなのか、わかりやすくまとめたいと思います。
株式分割をしても得するわけではない
実は、株式分割をしたからと言って、業績が上がるわけでも株主が得するわけでもありません。
例えば、発行済株式総数100株、時価総額10,000円の銘柄があったとします。
この場合、現在の株価は「時価総額10,000円 ÷ 100株 = 株価100円」です。
「1:2」の株式分割を行い、発行済株式総数を100株から200株にすると、「時価総額10,000円 ÷ 200株 = 株価50円」となり、現在の株価は半分になります。
既存株主が保有していた1株は、2株に倍増しますが、その一方で株価が半分になっているので、株主の利益が増えるわけでも企業の業績が良くなるわけでもないのです。
では、なぜ企業は積極的に株式分割を行うのか。
株式分割の究極の目的は、より多くの人に自社の株式を持ってもらうことです。
株式分割で株価が上がるのはなぜ?
株式分割をしても、企業・既存株主の双方にとって直接的なメリットはありません。
しかし、株式分割によって株価が下がるため、より多くの人がその銘柄を買いやすくなり、新規株主を呼び込むための呼び水になります。
例えば、記事執筆時点(2017年3月)で任天堂(7974)の株価は25,000円です。単元株数は100株なので、、、任天堂の株式を買うには最低250万円が必要です。
一般の投資家にとっては、250万円を1銘柄に投じるのは簡単なことではありません。
また、250万円という高額だとNISA口座(年間120万円の非課税投資枠)で買うこともできません。
つまり、任天堂はNISA口座で投資をしようと考えている潜在的な株主を取り逃していることになります。
そこで、株式分割を「1:100」の割合で行ったとします。すると、25,000円だった株価は250円となり、25,000円の投資金額があれば、単元株数である100株を購入できることになります。
25,000円で任天堂の株が買えるのであれば、小学生でもお年玉を全額投入すれば買えるほどの値段です。
より多くの人がその銘柄を買えるようになることで、これまで買えなかった投資家も、その銘柄に新規参入することができ、株価の値上がりに繋がります。
これが、株式分割で株価が上がる理由です。
大口投資家の参入も期待できる
最低購入価格が250万円など、手が出しにくい銘柄は必然的に流動性(取引高)が低下します。
小口投資家が株価が高すぎて手を出せないだけでなく、積極的に売買されていない銘柄というのは、大口投資家にとっても「買いたい時に買えない、売りたい時に売れない」という流動性リスクがあるため手が出しにくいものです。
株式分割によって取引量が増えると、買いやすく売りやすい状態になるため、大口投資家も参入しやすくなり、それが株価上昇の要因となります。
また、多くの株主を呼び込もうとしている姿勢が、「株主の方向をみて経営している」ととらえられ、良い印象を与えると考えることもできます。
このように、株式分割を行うことは多くの投資家・企業にとっても間接的なメリットがある行為なのです。
株式分割をしない理由
では、企業にとって株式分割をし、より多くの人に自社株を保有してもらうことはメリットとなるのに、なぜ任天堂のように数多くの企業が株式分割をしないのでしょうか?
ちなみに、任天堂は2013年の第73期 定時株主総会でこのように回答しています。
まず、株式分割というのは以前から株主総会の場でたびたび話題になっております。
当然、分割をするならどういう方法があり、どういうメリットとデメリットがあるのかということを会社の中で研究しておりますが、現時点で具体的に申しあげられることはございません。
ただ、株式分割には2つの側面があるということだけはご理解いただきたいと思います。一つは、投資単位を引き下げると「投資家層の拡大ができ、個人株主の方を増やすことができる」ということ。また、一般的に言われているように、株式の流動性が高まるということもございます。
一方で、過去に、この株主総会の席である株主様が発言されたことがございましたが、「株式を分割してしまうと株式にいわゆるプレミアム感がなくなってしまうので反対である」というようなご意見を賜ることもございます。
(一部省略)出典:任天堂
もちろん上記のような理由もひとつですが、実は、企業が株式分割をしない明確な理由が存在します。
うるさい株主を取り込みたくない
東京証券取引所は、「最低5万円~50万円で買える水準の株価が望ましい」と公表しています。
それなのに、記事執筆時点ではファーストリテイリング(ユニクロ)やファナック、そして任天堂など、日本の名だたる企業が株式分割をせず、最低200万円以上の投資資金が必要な銘柄となっています。
こうした企業が株式分割をしない理由は「質の悪い株主を増やしたくないから」です。
これは経営側の立場になって考えるとわかるのですが、株主の数を増やすとそれだけ文句を言う人も増えるし、自社株を誰でも買えるようになってしまうと、自社について何も知らない人(質の悪い株主)もたくさん出てきます。
また、単純に株主数が増えると、株主総会に大きな会場が必要となったり、案内状の発送数が増えるといった、事務手続きにかかるコスト面での問題も生じます。
こうした理由から、株主数を少なくし、できることなら機関投資家のような大口投資家だけで株主を固めたいというのが、株主分割をしない理由です。
発行株数を増やすことは、株式の流動性が高まることによるメリットもありますが、小口の株主が増えるとどうしても投機的な売買が行われやすくなり、株価と企業価値が乖離してしまう恐れがあります。
しかし、その企業についてしっかりと分析を行っている機関投資家のような大口だけに売買してもらえらば、株価は概ね企業価値を反映した水準で安定しやすくなります。
流動性が確保できていないのは問題ですが、任天堂のように流動性が確保できているなら、株主の質を高めるためにも株式分割を行わないというのは1つの考え方だと理解できます。
私は、気が向いたら保有銘柄の株主総会に足を運ぶこともあります。
株主総会では、少し調べればわかるような質問や、役員に対して怒号が飛び交うこともあります。経営陣をおちょくるような発言をする人や、限られた時間なのに永遠と話し続ける株主もいます。
当時、三井不動産株を保有していた私は、数年前に同社の株主総会に参加しました。(当時、三井不動産は購入に必要な金額が高い銘柄でした)
すると、驚いたことに株主総会で質問が飛び交うこともなく、静かな株主ばかりで総会は平穏無事に終了しました。
この時私は、多くの人に自社株を持ってもらうことは、メリットだけでなくデメリットもあること。経営側の立場にたって考えれば、理想的なのは「少しでも多くの、質の良い株主を増やすこと」であることを肌で感じました。
バークシャー・ハサウェイの株価は3,000万円
ちなみに、著名投資家のウォーレン・バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイという会社の株式は記事執筆時点で、最低約3,000万円がなければ買えません。(A株の場合)
バークシャー・ハサウェイは、世界TOP5の時価総額を誇る巨大企業なのですが、バフェットが「株価は企業価値に基いて決定されるべきだ」という意見を持っていることから、株式分割を行っていません。
バークシャー・ハサウェイ株はニューヨーク証券取引所に上場していますが、A株とB株に分けられています。
A株(BRK.A)
株価:261,787ドル(購入には約3,000万円が必要)
バークシャー・ハサウェイの本来の株式はA株。最低必要な購入価格を見てもわかるように、機関投資家向け。
売買する主な株主は機関投資家となるため、企業価値に基づいた評価を受けやすいメリットがある。
B株(BRK.B)
株価:174.67ドル(購入には約2万円が必要)
A株に対して1,500分の1の値段で買えるB株は個人投資家向け。株価はA株に追従して形成される。
ただし、議決権はA株の1万分の1しかない。(つまり議決権がほとんどない)
A株をB株に転換することはできるが、B株をA株に転換することはできない。
このような仕組みを作ることによって、誰でもバークシャー・ハサウェイの株を購入でき、株主総会に参加できます。
その一方で、企業側にとってもB株保有者は議決権が極めて少ないので、B株の株主に文句を言われることもないし、投機的な値付けが行われにくく、企業価値を反映した株価推移になりやすいメリットが得られます。
続いては、「自社株買いで株価が上がる理由、配当金よりも嬉しい最高の株主還元」です。
株式投資についてもっと詳しく
最後まで読んでいただきありがとうございました
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