四季報の大株主で見かける日本カストディ銀行、日本マスタートラスト信託口、日本トラスティ・サービス信託口の正体とは
執筆者:川原裕也
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当記事で取り上げている「日本トラスティ・サービス信託銀行」、「資産管理サービス信託銀行」、そして「JTCホールディングス(金融持株会社)」の3社が合併し、2020年7月27日に「日本カストディ銀行」が誕生しました。
三井住友トラスト・ホールディング系列の「日本トラスティ・サービス信託銀行(りそな銀行も一定割合を出資)」と、みずほフィナンシャル・グループ系列の「資産管理サービス資産銀行」が合併し、日本カストディ銀行になったことで、会社四季報の大株主欄の名称にも大きな変化が起こると思われます。
なお、日本カストディ銀行の株主は以下の通りです。
- 三井住友トラスト・ホールディングス:33.3%
- みずほフィナンシャルグループ:27.0%
- りそな銀行:16.7%
- 第一生命:8.0%
- 朝日生命:5.0%
- 明治安田生命:4.5%
- かんぽ生命:3.5%
- 富国生命:2.0%
日本カストディ銀行が誕生したことで、資産管理に特化した大手信託銀行は、三菱UFJ系列の「日本マスタートラスト信託銀行」と「日本カストディ銀行」の2強となります。
当記事は、上記の最新情報を踏まえた上で、読んでいただきますようお願いいたします。
会社四季報には上場企業の大株主、上位10名が記載されています。
大株主の中でも最も株式保有比率の高い「筆頭株主」は大きな影響力を持っています。
例えば、創業社長が持ち株比率50%を超える筆頭株主の場合、その会社は創業者の意図で自由に意思決定できます。
大株主が上場企業にもたらす影響はそれほど大きいものですが、会社四季報をたよりに大株主情報を見てみると、「日本マスタートラスト信託口」や「トラスティ・サービス信託口」という名前が大株主欄に記載されているのをよく見かけます。
「日本マスタートラスト信託口」や「日本トラスティ・サービス信託口」は、日本の名だたる企業の大株主として名前を刻んでいます。
※会社四季報では「日本マスター信託口」や「日本トラスティ信託口」と略称で記載されています。
- 日本マスタートラスト信託口が筆頭株主となっている大企業の一例
- 京セラ、三菱電機、ダイキン工業、花王、住友不動産など
- 日本トラスティ・サービス信託口が筆頭株主となっている大企業の一例
- トヨタ自動車、三菱商事、第一生命、オリックス、三井住友FGなど
※記事執筆時(2017年10月)の会社四季報の情報にもとづきます
これほど多くの企業で筆頭株主・大株主となっている「日本マスタートラスト信託口」、「日本トラスティ・サービス信託口」とは一体何者なのか?
今回はその正体に迫りたいと思います。
大株主の正体は信託銀行
実は、「日本マスタートラスト信託口」や「日本トラスティ・サービス信託口」の正体は「信託銀行」です。
一般的な銀行は、顧客からお金を預かり、中小企業や住宅ローンなどへ貸し出しを行うビジネスを展開しています。
一方で、信託銀行というのは、顧客の資産を預かり・守ることが主な業務となっています。
信託銀行では「三井住友信託銀行」や「三菱UFJ信託銀行」などが有名ですが、その中でも資産管理業務を専門的に行っている信託銀行が「日本マスタートラスト信託銀行」や「日本トラスティ・サービス信託銀行」となります。
こうした信託銀行の主な顧客は投資信託(資産運用会社)や年金基金(GPIFなど)です。
実質的には投資信託(ETF含む)や年金基金、保険会社といった巨額の資産を運用する投資家(機関投資家)がトヨタや京セラなどの大株主となっています。
これらの機関投資家は「日本マスタートラスト信託銀行」などを通じて売買を行います。よって、大株主として記載されるその名義が「信託銀行名義」になるわけです。
「日本マスタートラスト信託口」や「日本トラスティ・サービス信託口」の正体は資産管理業務を専門とした信託銀行であり、その実態は投資信託や年金といった機関投資家の集合体ということです。
日本では、日本マスタートラスト信託銀行、日本トラスティ・サービス信託銀行の他にも、みずほ系列の「資産管理サービス信託銀行」があり、この3社が大株主として見かけることの多い「資産管理業務を専門的にしている信託銀行TOP3」となっています。
- 日本マスタートラスト信託銀行
- 三菱UFJ信託銀行、日本生命保険、明治安田生命保険、農中信託銀行による共同出資
- 日本トラスティー・サービス信託銀行(現:日本カストディ銀行)
- 三井住友トラスト・ホールディングスとりそな銀行による共同出資
- 資産管理サービス信託銀行(現:日本カストディ銀行)
- みずほフィナンシャルグループ、第一生命保険、朝日生命保険、明治安田生命保険、かんぽ生命保険、富国生命保険による共同出資
上記の通り、いずれの信託銀行も大手金融機関が共同出資し設立しています。
とはいえ、「日本マスタートラスト信託銀行」は三菱UFJ信託銀行が40%超を出資、「日本トラスティ・サービス信託銀行」は三井住友トラスト・ホールディングスが66%超を出資、「資産管理サービス信託銀行」はみずほフィナンシャルグループが過半数を出資している状況なので、実質的にはメガバンクや都市銀行、大手信託銀行が運用している会社となっています。
いずれの信託銀行も預かり資産は数百兆円を超えています。
ちなみに、こうした資産管理業務に特化した信託銀行がどのような仕事をしているのかというと、
資産管理業務、その他付随業務
・ 年金資金等の管理業務
・ 投資信託の受託事務・委託代行事務
・ 国内証券・外国証券の管理事務
・ 有価証券の受渡、決済事務
・ 資金業務・預金為替業務 等
などの業務です。
ヘッジファンドの隠れみのになることも
上記で述べたとおり、信託銀行や証券会社・銀行といった金融機関が「隠れみの」になっていることは少なくありません。
大株主に名前を刻むのは、その株式の保有名義人であるため、信託銀行や金融機関が大株主となっているものの、その裏側に真の大株主が存在することも多いです。
例えば、投資信託やETFが投資している銘柄は、日本マスター信託口や日本トラスティ信託口の名義で大株主名が記載されています。
昨今、日銀(日本銀行)はETFを大量に買い入れている状況ですが、日銀が大株主になっているからといって、その名前は大株主欄には記載されません。
「日銀がETFを購入 → ETFがトヨタ自動車や京セラなどの株式を取得 → 名義人である日本マスター信託口などが大株主名として現れる」
といった構図です。
同じように昨今、多くの中小型株の大株主として登場している人気の投資信託「ひふみ投信」も同様です。
ひふみ投信(レオス・キャピタルワークス)は数多くの上場企業の大株主になっていますが、会社四季報には「ひふみ投信」や「レオス・キャピタルワークス」といった名前は存在しません。
大量保有報告書で本当の大株主を知る方法
しかし、大量保有報告書を見ることで、本当の株主が誰なのかを知ることができます。
大量保有報告書は、EDINET(エディネット)で自由に閲覧できます。
1.EDINETにアクセスする
2.「書類簡易検索」を選択
3.「提出者/発行者/ファンド」で「レオス」と入力。(ひふみ投信と入力しても出てこないので、レオス・キャピタルワークスと入力します)
※特定の企業の大株主を知りたい場合は、企業名を入れてもOKです
4.「有価証券報告書」のチェックを外し、「大量保有報告書」にチェックを入れる
5.検索ボタンを押す
上記の方法で、大量保有報告書や変更報告書の提出状況が閲覧できます。
PDFを開くと、
- 大量保有報告書を提出した理由
- いつ、どうやって取得したか
- 現在どれくらい保有しているか
- 保有目的
などが詳細に開示されています。
有価証券報告書で真の大株主を知る
また、企業のホームページやEDINETからダウンロードできる「有価証券報告書」でも、真の大株主名が記載されることがあります。
有価証券報告書の「大株主の状況」欄では、上位10名の大株主が記載されますが、その後に「大量保有報告書の提出に基づいた大株主」も記載されます。
この部分で、上位10名には名前のなかった、外資系投資ファンドの名前が出てくることも多いです。
自己株口とは何か?
少し話はそれますが、「日本マスター信託口」や「日本トラスティ信託口」と合わせて「自己株口」という名前も良く見かけます。
これは、企業が「自社株買い」によって取得した株式のことです。
たとえば、高級フランス料理店を経営する「ひらまつ(2764)」の筆頭株主は、2017年9月15日時点の会社四季報で「自社(自社株口) 27.9%」となっています。
つまり、ひらまつという企業自身が自社の株式を保有し、筆頭株主になっているということです。
自社株買いによって取得された株は「金庫株」と言われ、通常は市場に出回りません。
通常、自社株買いによって取得された株式は、どこかのタイミングで「消却」されるか、企業が資金調達をしたくなった時に「売り出し」をするか、株式交換による企業買収などに使われます。
また、最近では譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック)のような役員等への株式報酬として、自己株が割り当てられるケースも増えています。
「日本マスター信託口」や「日本トラスティ信託口」などは安定株主として長期保有が期待できます。自社株口も同様に、売り出される可能性の低い株主だと考えておくと良いかと思います。
次の記事は、「自社株買いで株価が上がる理由、配当金よりも嬉しい最高の株主還元」です。
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最後まで読んでいただきありがとうございました
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良い内容でした。